Gemma 4は、2026年7月15日付でGoogleが実施した大規模アップデートにより、処理速度が最大70%向上しました。対象はGoogle DeepMindが開発するオープンウェイトのマルチモーダルAIモデルで、Hugging Face上ですでに公開されています。今回の改善はコミュニティからのフィードバックを反映したもので、機能面と速度面の両方に手が入りました。無料でダウンロードでき、自社のサーバーやローカル環境で動かせる点がGemma 4の強みで、クラウドAPIに依存しないAI活用を検討している開発者からの注目度は高いといえます。この記事では、今回のアップデートで何が変わったのか、その技術的な裏付けとなるFlash Attention 4の仕組み、対象モデルの詳細、そしてこの改善が実務にどう影響するのかを整理していきます。

プリフィルのスループットが最大70%向上、NVIDIA Hopper GPUで効果を発揮
今回のアップデートの中心は、NVIDIAのHopperアーキテクチャGPU、具体的にはH100やH200上でユニフォームFlash Attention 4(FA4)を有効化したことです。これにより、プリフィルのスループットが25%から70%向上しました。プリフィルとは、ユーザーが入力したプロンプトをモデルが読み込み、内部表現に変換する処理段階のことを指します。この処理が速くなるほど、長文の入力に対する最初の応答が返ってくるまでの待ち時間が短くなります。
ユニフォームという表現には意味があります。モデル内の各レイヤーで統一的にFA4を有効化したことが、今回のスループット向上の技術的な裏付けになっているためです。一部のレイヤーだけ最適化するのではなく、全体を通して同じ高速化手法を適用したことで、25%から70%という幅のある改善が実現しています。
最初のトークン出力までの時間は最大31%短縮
処理速度の改善はプリフィルだけにとどまりません。最初のトークンが出力されるまでの時間、いわゆるTTFT(Time To First Token)も最大31%短縮されました。この指標は、実際にモデルを使うユーザーの体感速度に直結します。長い契約書を読み込ませて要約させたり、大量のログデータを渡して分析させたりする場面では、最初の応答が返ってくるまでの「待たされ感」が使い勝手を大きく左右するからです。
チャットボットやAIアシスタントのようにリアルタイム性が求められるアプリケーションほど、この31%という短縮幅の恩恵は大きくなります。プリフィルのスループット向上とTTFTの短縮は、いずれも同じFlash Attention 4の効果として説明できますが、後者のほうがユーザーの体感に近い数値だといえるでしょう。
Flash Attentionは2022年の登場からバージョン4まで進化してきた
今回の高速化を支えているFlash Attentionという技術について、少し掘り下げておきます。Flash Attentionは、Transformerモデルの中核であるAttention(注意機構)の計算を、GPUのメモリ階層を意識して最適化する手法です。通常のAttention計算は、系列長が長くなるほど計算量とメモリ使用量が二乗のオーダーで増大するため、長い文章を扱う際にボトルネックになりやすい性質があります。
Flash Attentionは、GPU内の高速なオンチップメモリであるSRAMを最大限活用し、低速なHBM(High Bandwidth Memory)への読み書きを減らすことで、計算速度を落とさずにメモリ効率を改善します。2022年に初版が発表されて以降、業界標準として急速に普及してきました。
その後継としてFlash Attention 2、Flash Attention 3が登場し、今回のFlash Attention 4はNVIDIAの最新世代GPUアーキテクチャ、HopperやBlackwell向けに特化してチューニングされたバージョンです。JITコンパイルの導入によってコンパイル速度が大きく向上したほか、Hopper・Blackwell世代のGPUに最適化された演算パイプラインが実装されています。Gemma 4でこの最新版をレイヤー全体に統一的に適用したことが、今回のプリフィルスループット向上を技術的に裏付けています。
アップデート対象はE2Bから31Bまでの全5モデル
今回の改善は、Gemma 4の全モデルラインナップに適用されました。対象となるのはE2B、E4B、12B、26B A4B、31Bの5モデルです。
このうちE2B、E4B、12B、31Bの4モデルは、モデル内のすべてのパラメータが推論時に活性化される「Dense(密)モデル」というアーキテクチャを採用しています。従来型のTransformer構造そのものです。一方、26B A4Bだけは「MoE(Mixture of Experts、専門家混合)モデル」で、モデル全体のパラメータ数は26B(260億)ですが、実際の推論時には一部の専門家サブネットワークのみが活性化される仕組みになっています。A4Bという表記は、実際にアクティブになるパラメータ数がおよそ4B(40億)相当であることを示していると考えられ、大きなモデル規模を持ちながら推論コストは小さなモデル並みに抑えられるという、MoEアーキテクチャらしい特性を体現したモデルです。
全モデルがテキストと画像の入力に対応しているのもGemma 4シリーズの特徴です。加えてE2B、E4B、12Bの3モデルは、テキスト・画像に加えて音声入力にも対応しており、音声アシスタントや会議の自動要約、リアルタイム翻訳といった用途への応用が見込まれています。
Gemma 3からApache 2.0ライセンスへの切り替えで商用利用の自由度が拡大
Gemma 4は2026年春にGoogleがリリースしたシリーズで、Google DeepMindの技術をベースに開発されています。Geminiという同社の最上位クローズドモデルとは別に、誰でも自由にダウンロードして使えるオープンモデルという位置づけです。
ライセンス面では重要な変更がありました。前世代のGemma 3はGoogle独自のライセンスが適用されており、特定の利用シナリオで商用利用が制限されたり、利用規模に上限が設けられていたりする側面がありました。Gemma 4では業界標準的なApache 2.0ライセンスが採用され、企業が法的な懸念を抱くことなくモデルの改変・再配布・商用利用を行えるようになっています。これは企業が自社製品にAIモデルを組み込む際の障壁を下げるもので、Gemma 4がビジネス用途でも採用されやすくなった要因の一つです。
コンテキストウィンドウは128Kから256Kへ倍増
マルチモーダル機能についても、Gemma 3は主にテキストと画像を中心としていましたが、Gemma 4では全モデルがテキスト・画像に加えて動画、そして140以上の言語をネイティブでサポートするようになりました。E2B・E4Bのエッジ向け軽量モデルには、音声理解機能も新たに加わっています。これらのモデルに内蔵された音声エンコーダーにより、外部の音声認識エンジンを介さずに音声を直接トークンとして処理できるため、低遅延での音声対話を実現できる設計になっているとされています。
コンテキストウィンドウも拡大しました。Gemma 3の128Kトークンに対し、Gemma 4では256Kトークンまで広がっています。長い文書全体を一度に読み込ませたり、大量の会話履歴を保持したまま対話を続けたりする用途では、この拡大は実用上大きな意味を持ちます。
モデルサイズは用途に応じてE2Bから31Bまで使い分けられる
Gemma 4は、実行環境に応じて複数のモデルサイズが用意されています。最も軽量なE2B(20億パラメータ)は、スマートフォンやRaspberry Pi、各種IoTデバイスといった計算資源が限られた環境での動作を想定して設計されています。E4B(40億パラメータ)はE2Bよりやや大きいものの、依然としてノートPCやスマートフォン上でローカルに動かせる小型モデルで、エッジデバイス上でのプライバシー保護を重視したAI活用に向いています。
中型モデルの12B、MoEアーキテクチャの26B A4B、そして31B(Dense)は、いずれも256Kトークンという長いコンテキストウィンドウを持ち、より高度な推論やコード生成、多言語対応が求められる用途に向いています。実際、31B Denseモデルは、大規模言語モデルの理解力を測るベンチマークであるMMLU Proで85.2%、数学的推論能力を測るAIME 2026で89.2%、コード生成能力を測るLiveCodeBench v6で80.0%という高いスコアを記録したと報告されています。特にコード生成や数学的推論の分野で、従来モデルから大きな性能向上が見られるとされています。
ローカル環境ではRTX 4090で45トークン毎秒前後のスループット
Gemma 4シリーズは、Ollamaのようなローカル実行ツールを使えば、複雑な環境構築をせずとも一般的なPC上で動かせます。参考値として、コンシューマー向けGPUのNVIDIA RTX 4090では、モデルによっておよそ45トークン毎秒程度のスループットが報告されており、Appleシリコン搭載のMac Studio M3 Ultra(128GBメモリ搭載モデル)では27トークン毎秒前後のスループットが得られるとされています。
ここで注意しておきたいのは、今回発表された25~70%というスループット向上の数値が、NVIDIA Hopperアーキテクチャのデータセンター向けGPU上でFlash Attention 4を有効化した場合のものだという点です。コンシューマー向けGPUやApple Silicon環境でどの程度の高速化効果が実際に得られるかについては、今後のベンチマーク検証を待つ必要があります。とはいえ、プリフィルスループットの向上は、こうしたローカル実行環境でも長いプロンプトを入力した際の待ち時間短縮という形で恩恵をもたらすと考えられます。
ツール呼び出しの精度向上はAIエージェント開発の実用性を高める
今回のアップデートは速度面だけではありません。ツール呼び出し(Tool Calling)の精度と一貫性も向上しました。ツール呼び出しとは、AIモデルが外部の関数やAPI、データベース検索などを呼び出して回答を生成する仕組みで、近年のAIエージェント開発において重要な機能になっています。
この仕組みは大きく4つの段階に分けられます。第一に「ツールの定義」で、モデルが利用できる関数の一覧をあらかじめ用意します。第二に「モデルのターン」で、モデルはユーザーからの質問と利用可能なツールの一覧を受け取り、必要であれば構造化された関数呼び出しのオブジェクトを返します。第三に「開発者のターン」で、モデルが出力した関数呼び出しの内容を解析し、実際のプログラムコードとして実行します。そして第四に「最終応答の生成」として、モデルが関数の実行結果を踏まえてユーザー向けの自然な文章による回答を生成します。
たとえば「東京の現在の天気は?」という質問に対して、モデルが知識だけで推測回答を作るのではなく、get_weather(location=”Tokyo”)という関数を呼び出す必要があるという構造化されたリクエストを出力し、開発者側のアプリケーションがその関数を実行して結果をモデルに返す、という流れになります。ツールの定義方法には、JSON形式のスキーマを手動で構築する方法と、Pythonの関数をそのまま渡す方法の2種類があります。後者では、関数の型ヒントや引数、docstringを解析することで、システムが自動的に必要なJSONスキーマを生成してくれるため、開発者は既存のPython関数をほぼそのままツールとして活用できます。
モデルが呼び出すべき関数を正しく選択し、関数に渡す引数を正確に生成することは、システム全体の信頼性を左右します。誤った関数を選んでしまえば意図しない処理が実行されますし、引数の生成が不正確であれば地名を取り違えたり単位を誤って指定したりする不具合につながります。複数のツールを組み合わせて自律的にタスクを遂行するAIエージェントの文脈では、こうした細かなミスの積み重ねが最終的なタスク遂行の成否を左右するため、今回の精度向上はGemma 4を用いたエージェント開発の実用性を高める改善だといえます。
Gemmaシリーズは初代から4世代を重ね性能とライセンスの両面で進化
Googleのオープンモデル「Gemma」シリーズは、Gemma 1、Gemma 2を経て、Gemma 3、そして今回のGemma 4へと世代を重ねてきました。初期のGemmaシリーズは比較的小規模なパラメータ数のモデルを中心に展開され、モバイル環境やエッジデバイスでも動作する軽量さを強みとしていました。Gemma 2の世代では、27B(270億)パラメータ級のモデルが当時の性能比較の参照点の一つとして扱われるなど、着実に性能を積み上げてきた経緯があります。
Gemma 3では独自の画像エンコーダーであるSigLIPを組み込むことでテキストと画像の両方を扱えるマルチモーダル対応が本格化し、最大128Kトークンのコンテキストウィンドウを備えました。そして今回のGemma 4では、コンテキストウィンドウが最大256Kへと倍増し、画像に加えて動画や音声にも対応するなど、対応モダリティの幅が大きく広がっています。ライセンスについても、Gemma 3までの独自ライセンスからApache 2.0への切り替えが行われたことで、商用利用における自由度が向上しました。
オープンウェイトモデルの領域ではMeta社のLlamaシリーズなど競合モデルも存在しますが、Googleが自社のFlash Attentionをはじめとする推論高速化技術を、クローズドなGeminiだけでなくオープンなGemmaシリーズにも投入している点は、開発者コミュニティにとって歓迎すべき動きといえるでしょう。
Hopper世代GPUを運用する開発者はライブラリ更新だけで恩恵を受けられる
今回のプリフィルスループット向上の数値(25~70%)やTTFTの短縮(最大31%)は、いずれもNVIDIA Hopperアーキテクチャのデータセンター向けGPU上でユニフォームFlash Attention 4を有効化した際の数値である点に注意が必要です。自社で運用しているGPU環境がHopper世代、つまりH100やH200であれば、Hugging Face上で公開されている最新のモデルおよび推論ライブラリを更新することで、今回の高速化の恩恵を受けられる可能性が高いといえます。
一方、コンシューマー向けGPUやApple Silicon環境でGemma 4をローカル実行している開発者にとっては、今回発表された数値がそのまま当てはまるとは限りません。実際にどの程度の効果があるかは、各自の環境で改めてベンチマークを取ることをおすすめします。
ツール呼び出し機能を使ってAIエージェントを構築している開発者にとっても、今回の精度向上は既存のプロンプト設計やツール定義を見直すきっかけになります。特に複数のツールを連鎖的に呼び出す複雑なワークフローを組んでいる場合、モデルの挙動が変わることで、これまで手動でカバーしていたエラーハンドリングの一部が不要になったり、逆に新たな挙動への対応が必要になったりする可能性があります。アップデート後は、既存のテストケースを一通り再実行し、期待通りの挙動になっているかを確認しておくとよいでしょう。
オープンウェイトモデルなら社内データを外部に出さずにAIを運用できる
Gemma 4のようなオープンウェイトモデルの意義は、AIモデルをブラックボックスのクラウドAPIとしてではなく、自社の管理下にあるインフラ上で直接運用できる点にあります。機密性の高い社内データや顧客情報を扱う企業にとって、データを外部のクラウドサービスに送信することなく、自社サーバーや閉域網内で完結してAI処理を行えることは、情報漏洩リスクの低減という観点で大きなメリットです。会議の議事録要約や社内規定に関する質問応答システムなど、比較的リスクの低いタスクからGemma 4を使った自社専用AIの構築を始め、徐々に活用範囲を広げていくというアプローチも紹介されています。
無料でダウンロードでき、Apache 2.0ライセンスのもとで自由に改変・再配布・商用利用ができる点は、資金力の限られたスタートアップや個人開発者にとっても、高性能なAIモデルへのアクセスを大きく開く役割を果たします。今回のような継続的なアップデートがリリース後もコミュニティのフィードバックを反映しながら行われている点は、Gemma 4が公開して終わりのモデルではなく、実際の利用者の声を取り込みながら進化し続けるプロダクトとして運用されていることを示しています。
処理速度の向上は、クラウド上でGemma 4を大規模に提供している事業者にとっても意味を持ちます。同じGPUリソースでより多くのリクエストを処理できるようになるため、運用コストの削減に直結するからです。プリフィルスループットが最大70%向上するということは、理論上、同じハードウェア構成でより多くの同時アクセスをさばけるようになる、あるいは同じ処理量をより少ないGPUリソースでまかなえるようになることを意味しており、AIサービスを提供する企業にとって見逃せない改善です。
今回のGemma 4アップデートは、NVIDIA Hopper GPU上でのユニフォームFlash Attention 4の有効化により、プリフィルスループットを最大70%、TTFTを最大31%改善するという、実利用に直結する性能向上をもたらしました。ツール呼び出しの精度と一貫性の向上も加わり、AIエージェント開発における実用性が高まっています。これらの改善はE2B・E4B・12B・26B A4B・31Bという全モデルラインナップに適用されており、エッジデバイス向けの軽量モデルから高度な推論能力を持つ大規模モデルまで、幅広いユースケースで恩恵を受けられる点も見逃せません。無料で使えるオープンモデルでありながら、データセンター向けGPUでの高速化技術を積極的に取り込んでいく姿勢は、クラウドAPI一辺倒ではないAI活用を模索する開発者や企業にとって、引き続き注目すべき動向だといえるでしょう。








